七夕

 

episode.1
「七夕-Nanase-」

 

また朝だ。
また、くだらない一日が始まる。
外では小学生や鳥の声が聞こえるが、鬱陶しいだけだ。

今日から新学期だ。

新学期と言っても、俺はこの一年間学校へ行っていない。
最初のウチは親も「学校へ行け」と五月蠅かったが
最近では親も諦めたのか、何も言わなくなった。

先生もだ。
最初は毎日のようにウチへやってきて

「学校へ行こう。学校は楽しいぞ。」

と、言っていたが
ここ数ヶ月、ウチへは来ていない。

親も先生もいい加減なモノだ。

くだらない。

学校なんて、くだらない。

何が友達だ。

何が集団行動だ。

そんモノ、生きていく上で全く必要ないじゃないか。

こうやって、毎日好きな時間に起きて、好きな時間に寝る。
不味くても、何か食べていれば生きていけるのだ。

 親が来た。

 

「朝ご飯作ったから、食べてね。」

「…。」

「じゃ、ここ置いておくからね。」

「…。」

「お母さん、今から仕事だけど、お昼、冷蔵庫に入ってるからね。温めて食べてね」

「…。」

「じゃあ、行ってくるね」

「…。」

 

外でバイクの音がする。

もう出かけたようだ。
さて、また不味いメシでも喰うか。

……。

まただ。

また、母親からの手紙が一緒においてある。
こんなものを書いても、俺が読まないことぐらい分かっているだろう。

俺は、手紙をやぶろうとした

 

「読まないの?」

 

急に声が聞こえた。
女の子の声に聞こえた。
俺は驚いて、あたりを見回した。

誰も居ない。

そうだ居るわけがない。

母親はさっき出かけたし、父親は死んでいる。
兄弟も居ない。
この家に居るのは俺だけだ。

俺は気のせいだろう。と思い
手紙を破き、ゴミ箱へ捨てた。

 

「どうして読まないで捨てるの?」

 

また声が聞こえた。
さっきと同じ声だ。
今度は気のせいではない。
確かに聞こえた。

「誰だ。」

「どうして読まないの?」

「そんなの俺の勝手だ。質問に答えろ。」

「わたしはナナセ。七夕って書いてナナセ。」

「ふーん。」

「どうして手紙読まないの?」

「読む必要がないからだ。」

「どうして?」

「そんなの俺の勝手だろ。っていうか、お前は何処に居るんだ?」

「え?」

「だから、お前は何処に居るんだ?」

「あなたの目の前にいるじゃない?」

「見えないぞ。」

「え?嘘?」

「嘘をついてどうなるんだ?」

「わたし、見えない?」

「あぁ。見えん。」

「目の前にいるよ?」

「?」

 

七夕は、そのあと俺に、

「わたしはここにいる。」

と何度も説明した。
俺は、七夕はここにいる、と言うことを認めることにした。

 

「わかった。わかった。お前が俺の目の前にいることはわかった。」

「よかったぁ…。」

「で、だ。」

「うん?」

「どうして俺はお前が見えないんだ?」

「え?…なんでだろう?」

「…。って言うかお前、どこから入ってきたんだ?」

「え?」

「どこから入ってきたんだ?」

「どこ…だろう…?」

「…?」

「わかんない…。わたし、この部屋にどうやって入ってきたか、わかんない。」

「は?」

「わかんない…。わたし、どこから来たか…わかんない…。」

「どういうことだ?」

「わかんない…。わかんない…。」

 

そういうと七夕は、しくしくと泣きだした。

 

俺はこのとき思った。

七夕は幽霊じゃないのか?と。

しかし、確信がない。
この世に幽霊が存在するのか。

俺はいい加減なことは言いたくない。
あの、母親や、教師のようなことは言いたくない。

だから、この事は七夕には言わないことにする。

 

 

こうして、俺と七夕は出会った。

 

episode.1「七夕 -Nanase-」 end

episode.2へ

戻る。

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送