episode.2
「傷 -wound-」

 

こうして、俺と七夕は出会った。 

今思えば、俺は誰かと会話したのは久しぶりだった。
いつも母親には話しかけられるが、返事はしていなかった。

 「ね!ね!」

七夕が嬉しそうに俺に話しかけた。
おいおい、さっきまでコイツ泣いてなかったか?
自分が人から見えないというのに、どこから来たのか分からないのに、もう全然、気にしてないみたいだ。
七夕は結構すごいヤツかもしれない。
とりあえず、返事はしておこう。

「あ?」

「朝ご飯!」

「それがどうした。」

「美味しそうだね!」

「…そうか?」

「うん!すっごく美味しそう!目玉焼きとか、ウィンナーとか!」

「欲しいのか?」

「うん!」

「ふーん。こんなのが欲しいのか。ほれ。」

 

俺は、朝ご飯を七夕にあげることにした。
どうせ残すんだ。
七夕にあげても問題はない。
それに、一食ぐらい抜いたって死にはしない。

そういや、七夕はどうやってメシを食べると言うんだ?

 

「ん!やっぱり美味しいよ!目玉焼き!」

 

普通に喰ってた。
俺に目玉焼きの美味しさを力説しながら食べている。
食べているんだろうな。
どんどん目玉焼き、減っていくし。

俺もなんだか目玉焼きが食べたくなった。
こんなことは久しぶりだ。

「おい。俺にも喰わせろ。」

「ん?何を?」

「目玉焼きだ」

「全部食べちゃったよ?」

遅かったみたいだ。
もうちょっと早く言えば良かった。
こんな得体の知れないヤツに目玉焼きをあげたのは間違いだった。

俺は悔しいので寝ることにした。

小学生か…俺は…

 「あれ?また寝ちゃうの?」

五月蠅いヤツだ。

俺の目玉焼きを奪った上に、睡眠の邪魔までする。
なんてヤツだ。

おれは無視することにする。

「ねー!ねー!なんで、また寝るのー?」

 無視だ。無視。

「ねー!もっとお話しよーよー!」

!?

もっとお話ししようよ?

俺とか?

俺と話をして何が楽しいんだ?

もっと話がしたいと言われたのは初めてだ。

 

「お前とは、もう、話したくない。」

 

この言葉なら何回も言われたことがある。

そうだ。
俺と話をしても面白いことはないし、役にも立たない。
気分を害されることがあるぐらいだ。

俺が友達を作ろうとしなかった理由はここにもある。

意味の無いモノだけならまだしも、危害を加えられるモノだとしたら…

考えただけで寒気がする。

 

 誰かを傷つけるのが嫌だった。

 

誰かを傷つけてしまった瞬間、それを思い出した瞬間。
俺は傷つく。

誰かを傷つけることが、俺は一番傷つく。

そうだ。
俺は誰かを傷つけるのが嫌で、この部屋に引きこもったんだ。

誰とも会わず、誰とも会話せず、誰も傷つけることなく

この一年間、過ごしてきた。

そう…誰とも会わず、会話せず…。

 

「しまった。」

 

俺は思わず声を出してしまった。
俺は今、七夕と会って、会話してしまった。

また、人を傷つけてしまったかもしれない…

 

「何が『しまった』なの?」

 

七夕が俺に話しかける。

止めてくれ。
俺に話しかけないでくれ。
また人を、七夕を傷つけてしまうかもしれない。

嫌だ。

嫌だ。

嫌だ。

俺は七夕を傷つけたくない。
俺は傷つきたくない。

 

「ねぇ?大丈夫?すごい汗だよ?」

 

また七夕が俺に話しかける。

オレハ キズツキタクナイ

オレハ キズツキタクナインダ

 

「ねぇ!?ホントに大丈夫!?」

「止めてくれ!!」

「え…?」

「俺に話しかけるな!」

「…ぇ、どうし…?」

 

まただ。

俺はまた人を傷つけた。

 

 

episode.2「傷 -Wound-」 end

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