episode.3
「治癒 -Recovery-」

 

俺はまた人を傷つけた。

 どうして…

どうして、俺は…

さっき、七夕は俺を心配してくれてたんじゃないか。
どうして俺は人を傷つけることしかできないんだ。

…。

そうだ。
傷つけたんなら、治せば良い。
傷薬を塗れば良いんだ。

そうだ。
 謝れば良いんだ。

ちょっと謝ったぐらいで、傷を癒せるとは思わない。
でも、謝らないより、ずっと良いはずだ。

そうだ。
今になって気づいた。
俺は今まで 人を傷つけても謝ることがなかった。

それが、結果的に俺に傷つけていたのではないか。

謝ろう。

心の底から謝ろう。

わざとらしいかもしれないけど
下手な言葉しか並べられないかもしれないけど

謝ろう。

「…。なぁ、七夕。
さっきはスマン。俺が悪かった。
言い訳になるかもしれないが、聞いてくれ。
俺さ、人と喋るのが苦手なんだ。
 いつも、よく考えないで喋っちまうんだ。
だから、よく人を傷つける。
さっきも、俺、人と喋るの久しぶりでさ…
俺、誰かを傷つけるのが嫌なんだ。
誰かを傷つけたら、俺がその分、傷つくんだ。
ここで、誰にも会わないで、誰とも喋らないでいれば、誰も傷つけない。
俺が傷つくこともない。
 …結局、俺、逃げてるんだな。
誰かを傷つけるのが恐くて、こんな狭い部屋に籠もって…。
ホント、スマンかった。
俺が悪い。
100%俺が悪い!
七夕は、俺のこと心配してくれてたんだよな…。
それなのに、俺…
 人として失格だ!
…いや、もうとっくに失格になってたかもしれない。
俺、逃げたんだからな。
スマン!七夕!
許してくれとは言わない!
せめて、今、俺がつけた七夕の傷を、少しでも癒したい。
ホント、俺が傷つけておいて何言ってるんだろうな…。
ホントに、スマン…」

俺は、一気にこういった。
こんなに喋ったのは始めてかもしれない。
部屋に籠もる前からも、そんなに喋る方ではなかったからだ。

「…ふぇ?え?何?」

七夕の声が聞こえる。

「え?何?って、俺が今までお前に謝っていたんだけど…」

「ん〜?私、なんか謝るようなコトした?」

なんだそれ?

「その場合、あんた、私に謝られるようなコトした?だろ…
なんか調子狂うな…」

「あー、そっかぁ。で、なんで謝られてるの?私。」

「だから、俺、お前を傷つけただろ?」

「え〜?いつ〜?」

「たった今。」

「今?」

「お前に五月蠅い。黙れ。って言ったじゃん。」

「うん。言われたねぇ。」

「傷ついたろ?…傷ついたよな?」

「ううん。全然。全く。少しも。微塵も。」

 

俺は、このとき、初めて死にたいと思った。

 

「憂鬱 -Melancholy-」

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